「2025 年版】 EU・欧州のドローン規制まとめ(2025 年版)
はじめに
欧州連合(EU)では、欧州航空安全機関(EASA) が策定した統一ドローン規制が、加盟国および EFTA 諸国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス)で適用されています。この規制は、ドローンの重量や性能、そして飛行のリスクに応じてルールを定める「リスクベース」のアプローチが特徴です。
本記事では、2025 年時点の最新情報に基づき、趣味の飛行から商用利用まで幅広くカバーする EU のドローン規制を包括的に解説します。
EASA ドローン規制の背景
2019 年に導入され、2021 年から本格的に適用が開始された EASA の統一規制は、それまで各国でバラバラだったドローンルールを標準化し、EU 域内での自由なドローンの流通と運用を促進することを目的としています。
最大の特徴は、飛行のリスクを 3 つのカテゴリーに分類し、それぞれに応じた明確なルールを設けている点です。これにより、利用者は自身が行いたい飛行がどのカテゴリーに該当するかを判断し、必要な手続きを遵守することで安全な運用が可能になります。
3 つの運用カテゴリー
EU のドローン規制は、飛行のリスクに応じて 3 つのカテゴリーに大別されます。
- Open (オープン): 低リスクな飛行。事前の許可は不要だが、厳格なルールに従う必要がある。ほとんどのホビー用途や小規模な商業利用が該当。
- Specific (特定): Open カテゴリーの範囲を超える中程度のリスクを持つ飛行。運用者は国家航空当局(NAA)からの許可が必要。例:都市部での目視外飛行、特定の高度や重量を超える飛行など。
- Certified (認証): 有人航空機と同等の高リスクな飛行。機体・運用者ともに認証が必要。例:人を乗せたドローンタクシー(eVTOL)、都市上空での危険物輸送など。
https://www.easa.europa.eu/en/domains/drones-air-mobility/operating-drone
Open カテゴリー詳解
ほとんどの一般的なドローン飛行は、この Open カテゴリーに分類されます。このカテゴリー内で安全に飛行するためには、オペレーター登録、ドローンのクラス分類、飛行のサブカテゴリーの 3 つの要素を理解することが不可欠です。
基本的な共通ルール
- 最大飛行高度は地上から 120m まで。
- パイロットは常にドローンを目視できる範囲(VLOS)で飛行させる。
- 飛行禁止区域(空港周辺、自然保護区、軍事施設など)では飛行しない。
- 人の集まり(群衆)の上空は飛行禁止。
オペレーター登録
以下のいずれかに該当する場合、ドローンを所有・運用する「オペレーター」として登録が義務付けられています。
- ドローンの重量が 250g 以上の場合。
- 250g 未満であっても、カメラやマイクなど個人情報を収集しうるセンサーを搭載している場合。
- 250g 未満でも、時速 80km 以上の速度で飛行可能な場合。
※おもちゃとして分類される製品(EU の玩具指令に準拠)は登録不要です。登録はオンラインで完了し、発行された登録番号を機体に表示する必要があります。
ドローンの CE クラス分類 (C0〜C4)
2024 年 1 月 1 日以降に市場投入されるドローンには、その仕様に応じてC0 から C4の CE クラスラベルの表示が義務付けられています。このクラスによって、どのサブカテゴリーで飛行できるかが決まります。
クラス | 最大離陸重量(MTOM) | 主な要件 |
---|---|---|
C0 | 250g 未満 | 速度制限、高さ制限機能 |
C1 | 900g 未満 | リモート ID 搭載、ジオフェンシング機能 |
C2 | 4kg 未満 | リモート ID、低速飛行モード |
C3 | 25kg 未満 | リモート ID、ジオフェンシング機能 |
C4 | 25kg 未満 | 遠隔操作機能を持たない模型航空機など |
飛行サブカテゴリー (A1, A2, A3)
Open カテゴリーは、飛行場所のリスクに応じてさらに 3 つのサブカテゴリーに分かれます。
A1: 人の近くで
- 対象ドローン: C0, C1 クラス
- ルール: 第三者の上空を意図せず短時間飛行することは許容されますが、人の集まり(群衆)の上空は飛行禁止です。
- 操縦者要件: オンラインの基礎的なトレーニング(A1/A3)の完了とテスト合格が必要です。
A2: 人から安全な距離を保って
- 対象ドローン: C2 クラス
- ルール: 第三者から安全な水平距離(通常 30m、低速モード時は 5m)を保つ必要があります。第三者の上空飛行は禁止です。
- 操縦者要件: A1/A3 トレーニングに加え、追加の A2 理論試験に合格し、自己訓練を行う必要があります。
A3: 人里離れた場所で
- 対象ドローン: C3, C4 クラス、およびクラスラベルのない旧型ドローン(レガシードローン)
- ルール: 飛行エリアに第三者がいないことを確認し、住宅地や商業地から 150m 以上離れた場所で飛行させる必要があります。
- 操縦者要件: A1/A3 トレーニングの完了とテスト合格が必要です。
非 EU 市民(旅行者)のための注意点
EU 圏外から訪れる旅行者も、EASA の統一ルールに従うことでドローンを飛行させることが可能です。
- 登録は「最初の国」で: カメラ付きまたは 250g 以上のドローンを飛行させる場合、オペレーター登録が必要です。この登録は、あなたが最初にドローンを飛行させる予定の EU 加盟国の航空当局(NAA)で行います。
- ライセンスも「最初の国」で: 自国のドローンライセンスは EU では無効です。必要なオンライントレーニングとテスト(A1/A3 など)も、登録と同じ国の航空当局のウェブサイトを通じて受ける必要があります。
- 一度きりの手続き: 一度いずれかの国でオペレーター登録とテストを完了すれば、その ID と証明書はすべての EASA 加盟国で有効です。
- 保険の確認: C1 以上のドローンを運用する場合、賠償責任保険への加入が義務付けられています。旅行前に、十分な補償内容の保険に加入しておくことを強くお勧めします。
その他関連する法律
- プライバシー保護 (GDPR): カメラ付きドローンで個人が特定できる映像を撮影する場合、一般データ保護規則(GDPR)が適用されます。撮影対象の同意なしに映像を公開すると、高額な罰金が科される可能性があります。
- 各国の国内法: 飛行禁止区域の設定など、一部のルールは各国の裁量に委ねられています。飛行前には必ず各国の航空当局が提供する空域マップを確認してください。
海外との規制比較
項目 | EU (EASA) | 日本 | 米国 (FAA) | 中国 (CAAC) |
---|---|---|---|---|
重量基準 | 250g 以上(登録) | 100g 以上 | 250g 以上 (0.55lbs) | 250g 以上(実名登録) |
登録義務 | 250g 以上 or カメラ搭載 | 100g 以上全機体 | 250g 以上 | 250g 以上 |
リモート ID | C1 クラス以上で義務化 | 義務化(経過措置あり) | 義務化 | 一部義務化 |
操縦ライセンス | カテゴリー別(A1/A3, A2) | 国家資格(一等・二等) | Part 107(商用) | 必須(CAAC 認定) |
目視外飛行 | Specific カテゴリー(要許可) | レベル 4 解禁済み | BVLOS waiver(要許可) | 限定的に許可 |
飛行高度制限 | 120m | 150m | 400ft(約 122m) | 120m |
よくある質問(FAQ)
-
Q: 250g 未満のカメラ付きドローン(DJI Mini シリーズなど)は登録が必要ですか? → はい。カメラを搭載しているため、オペレーター登録が必須です。
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Q: 日本のドローン国家資格は EU で使えますか? → いいえ、使えません。EU 内で飛行させるには、指定されたオンライン講習とテストに合格する必要があります。
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Q: フランスで登録しましたが、ドイツでも飛行できますか? → はい。一度いずれかの EASA 加盟国で登録・ライセンス取得を行えば、他の加盟国でも有効です。
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Q: クラスラベルのない古いドローンはどうなりますか? → 「レガシードローン」として扱われ、飛行は主に A3 カテゴリー(人里離れた場所)に限定されます。
今後の展望
EU では、より高度なドローン運用を実現するためのU-spaceと呼ばれる空域管理システムの導入が進められています。これは、ドローンの交通管理(UTM)を実現するもので、将来的には都市部での自律的なドローン配送や空飛ぶクルマ(UAM)の運航を支える基盤となることが期待されています。2025 年以降、U-space 関連のサービスが本格的に展開される予定です。
まとめ
- EU の規制はリスクベースで、Open, Specific, Certifiedの 3 分類。
- ほとんどの飛行はOpen カテゴリー。オペレーター登録、機体クラス、飛行サブカテゴリーの理解が必須。
- 250g 未満でもカメラ付きなら登録要。
- 旅行者は最初に入国・飛行する国で登録とライセンス取得が必要。
- **プライバシー(GDPR)**にも十分な配慮が求められる。