【2025 年版】アメリカのドローン規制・公式ガイドまとめ
本稿は、アメリカ合衆国における無人航空機(UAS/ドローン)運用の基本原則と実務手順を、趣味飛行(Recreational)と商用飛行(Part 107)に分けて整理した総合ガイドです。2025 年時点で運用の前提となるRemote ID(リモート ID)の義務化、TRUST(趣味飛行の安全テスト)、機体登録(DroneZone)、FRIA、LAANC、Operations Over People/Night等の重要項目を体系的に解説し、加えて外国人旅行者の注意点、よくある誤解、頻出シナリオ別の実務フロー、州・地方規制や公園ルールの扱い、コンプライアンスとペナルティまで踏み込んでご紹介します。
1. はじめに:アメリカでドローンを飛ばす前に
アメリカ国内でドローンを飛行させる場合は、FAA(連邦航空局)の規則遵守が必須です。2025 年現在、制度の中核はRemote ID(ドローンの識別情報等を電波で発信する仕組み)で、登録対象の機体は原則としてリモート ID の発信が求められます。趣味利用であっても、総重量が一定以上であれば機体登録が必要になり、またTRUSTと呼ばれるオンライン安全テストの合格が求められます。商用で運用する場合は、Part 107の下での運用資格(Remote Pilot Certificate)の取得が前提となります。
本稿では、趣味利用と商用利用それぞれの前提条件、空域・手続・運用方法、違反時のリスク、外国人旅行者向け留意点など、実務者が直ちに活用できるレベルの情報を網羅します。
2. 規制の基本構造(連邦法・FAA ルールの全体像)
ドローン運用のルールは、主として連邦法と FAA 規則によって定められています。地方自治体が独自の条例で離着陸地点や公園内の使用等を制限することはありますが、空域の管理は連邦の専管事項であり、基本的には FAA の定める空域クラス・運用ルールが優先されます。したがって、運用者は**(1)連邦ルールでの適法性と(2)現地の離着陸・占用ルール**の両面を満たす必要があります。
FAA ルールは、大別して趣味飛行(Recreational)と商用飛行(Part 107)に区分されます。両者は機体登録の扱い、資格要件、空域許可の取得方法、運用制限に差異があるため、目的に応じて正しい分類を選ぶことが最初のコンプライアンスとなります。
3. 趣味飛行(Recreational Use)
3.1 TRUST(安全テスト)
趣味目的でドローンを飛ばす方は、The Recreational UAS Safety Test(TRUST)に合格し、合格証明を携帯する必要があります。TRUST はオンラインで無料で受験でき、難易度は高くありませんが、航空安全・空域・運用責任に関する基本理解が問われます。現地での立入検査や事故対応時に提示を求められる可能性があるため、紙やデジタルで即時提示できる状態にしておいてください。
3.2 機体登録とマーキング
0.55 ポンド(約 250g)以上の機体は、FAA DroneZoneでの登録が必要で、3 年間有効・費用 5 ドルが目安です。登録後は発行番号を機体外側に表示し、登録証明の携行が求められます。趣味利用で 250g 未満の機体は登録免除の場合が多いですが、商用利用(Part 107)で使う場合は重量にかかわらず登録が必要になる点にご注意ください。
3.3 Remote ID 義務と FRIA の使い分け
Remote IDは、登録対象の機体に対して原則義務となります。趣味利用者がRemote ID 非対応の機体を飛ばしたい場合は、FRIA(FAA-Recognized Identification Area)での飛行に限定すれば合法となります。FRIA はFAA が認定した地理的区域で、CBO(Community-Based Organization)や教育機関が申請して設置します。FRIA は基本的に趣味飛行のための制度であり、商用飛行(Part 107)で Remote ID 免除として FRIA を使うことは想定されていません。
3.4 飛行ルールと CBO ガイドライン
趣味飛行は、連邦法(49 U.S.C. §44809)の枠組みとFAA が認定する CBO の安全ガイドラインの順守が前提となります。**目視内(VLOS)での運用、高度 400 フィート以下、有人機優先、無許可での空港周辺の飛行回避、他者のプライバシー配慮等が基本となります。夜間飛行はCBO ガイドラインの要件(例:反衝突灯)**を満たすことで可能となる場合が多くあります。
3.5 空域確認と LAANC の概念
B4UFLY等の公式アプリでTFR(臨時飛行制限)や特別使用空域を含む空域状況を事前確認してください。管制圏(Class B/C/D/E surface)で400 フィート以下の定型運用を行う場合は、LAANCを通じて即時の空域承認が可能です。Class G(非管制)であれば、施設マップの上限や TFR に気をつけつつ、基本的には承認不要で運用できます。
4. 商用飛行(Part 107)
4.1 Remote Pilot Certificate の取得
商用でドローンを運用するには、Part 107 の Remote Pilot Certificateが必要です。16 歳以上、知識試験(UAG)合格、TSA 身元確認を経る必要があります。有効性の維持(Recurrent training)はオンライン講習で行えるため、法改正・安全情報の更新に応じて継続教育を受けてください。
4.2 運用制限(高度・速度・空域・視程・VLOS)
Part 107 では、55 ポンド(約 25kg)未満の小型 UAS を対象に、高度 400 フィート以下(構造物近傍を除く)、VLOS、気象・視程要件、他機優先、危険物禁止、無人機からの投下の制限等が基本となります。Class Gが基本運用空域となりますが、Class B/C/D/E surfaceで飛行する場合はLAANC または DroneZone での承認が必要です。
4.3 Operations Over People/Moving Vehicles/Night
2021 年の制度改訂により、特定条件下で夜間飛行および人上・移動車両上の飛行が追加の個別許可なしに可能となりました。夜間は反衝突灯と該当する訓練が前提条件です。人上はCategory 1〜4の枠組みが設定され、機体の重量・エネルギー・認証等に応じて要件が異なります。移動車両上の飛行もリスク低減要件を満たすことで運用可能になります。
4.4 空域オーソリゼーション(LAANC・DroneZone)
LAANCはClass B/C/D/E surfaceの施設マップ内での定型運用に適した即時承認の仕組みで、夜間承認にも対応しています。一方、LAANC でカバーされないケースや施設マップを超える高度、特別なプロファイルが必要な場合は、DroneZone経由での手動審査となります。審査期間には余裕を持つのが実務の鉄則です。
4.5 Waiver(例外許可)と BVLOS の位置づけ
Part 107 の標準制限を超える運用(例:BVLOS、高度上限超え、複数機同時等)にはWaiverが必要となります。BVLOSの恒常的ルール化は進行中ですが、2025 年現在は限定的な承認または実証枠組みの活用が中心で、運用リスク評価、手順整備、技術的対策の三位一体が求められます。
5. Remote ID の詳細(実装と運用管理)
5.1 標準対応機・ブロードキャストモジュール・FRIA
Remote ID の準拠方法は 3 通りです。 (1)標準対応機(Standard RID):機体が出荷時から Remote ID に対応。 (2)ブロードキャストモジュール:非対応機に外付けで搭載。機体登録の識別番号とのひも付けや装着手順の正確性が重要です。 (3)FRIA:Remote ID 非対応の機体をFRIA 内で運用する特例。操縦者も機体も FRIA 境界内に常時留まる必要があり、VLOSが前提となります。商用運用の一般的な免除策ではない点にご注意ください。
5.2 ブロードキャスト要素・ログの考え方
Remote ID は、機体識別子・機体位置・高度・速度・時刻・操縦位置(または離陸位置)などのコア要素をBluetooth/Wi-Fi 系の電波で近傍に送出します。ネットワーク RIDは現在の制度では必須要件ではありません。運用者は、発信の有無・シリアル照合・装着状態を点検し、フライトログや機体整備記録にRID 関連項目を組み込み、監査や事故時の立証に備えてください。
5.3 よくある不適合事例と是正
- モジュールの登録紐付け不備:DroneZone の記載・更新不備。→ 登録情報の即時更新をしてください。
- 装着忘れ・電源未投入:チェックリスト不徹底。→ プリフライト点検項目に RID 確認を追加してください。
- FRIA 外で非対応機運用:FRIA 境界の誤解認識。→ FRIA 座標・境界の事前確認・掲示を行ってください。
- 商用運用での FRIA 依存:制度の適用誤り。→ Part 107 では原則 RID 準拠に戻してください。
6. 州・地方・公園・連邦用地におけるルール
空域は連邦の管轄ですが、離着陸地点や占用は州・郡・市・公園当局が独自に制限することがあります。典型例は州立/市立公園のドローン禁止、事前許可制、特定イベント期間の全面禁止等です。国立公園(NPS)は、原則として園内からの離着陸を禁止しています。商用撮影は当該管理者の許可やロケーションポリシーが必要となるケースが多くあります。運用者は現地の管理主体を特定し、最新の告示・FAQ・通達を参照のうえ書面でエビデンス化しておくことをお勧めします。
7. 外国人旅行者のための実務ガイド
趣味飛行を行う旅行者は、(1)TRUST 合格、(2)必要な機体登録、(3)Remote ID 準拠、(4)空域確認が基本です。DroneZoneの登録は海外住所でも可能で、決済手段があればオンラインで完結します。FRIAは趣味飛行でRID 非対応機を運用したい場合の選択肢ですが、場所が限定されるため事前に所在地を確認する必要があります。
商用飛行はハードルが高くなります。外国の操縦資格は米国内では通用しないため、FAA の Remote Pilot Certificate(Part 107)を米国内の試験センターで取得し、TSA 身元確認を通過しなければなりません。短期滞在で実務に耐えるまでの準備を行うのは現実的には困難な場面が多くあります。観光地では地元条例や公園ポリシーの影響が大きいため、空域合法でも離着陸禁止という事態が発生し得ます。B4UFLY で空域、管理者サイトで離着陸可否を二段階で確認するのが実務上の鉄則です。
8. 安全・プライバシー・データマネジメント
運用者は、航空安全に加えプライバシーとデータ保護にも責任を負います。住宅地・学校・病院・公共施設周辺では、被写体の同意や撮影範囲に配慮し、顔認識・ナンバープレート識別が可能な解像度での記録は最小化・マスキング等でリスク低減を図ってください。収集データは保存期間・アクセス権・暗号化を定め、第三者提供の有無・目的・法的根拠を社内ポリシーに明記してください。ログ管理(飛行記録・整備記録・インシデント記録)を統合し、監査対応や保険手続に備えてください。保険は対人・対物賠償に加え、機体損害・使用不能損失、データ漏えいまでカバーするプランを検討されることをお勧めします。
9. コンプライアンス・監督・ペナルティ
FAA は、無登録・Remote ID 不適合・無資格商用運用・空域違反等に対して、民事罰・行政処分・刑事訴追を行う権限を持っています。現場での提示要求(ID・登録証・資格証)に応じられない場合、即時の是正指示や運航停止を受ける可能性があります。臨時飛行制限(TFR)違反、緊急活動の妨害、空港進入表面の侵害は、重大な安全リスクと見なされ厳罰の対象となります。運用者は最新告示の購読・社内監査・第三者点検をルーチン化し、**「意図せぬ違反」**を未然に防ぐ体制を構築することが重要です。
10. よくある誤解と FAQ(運用者別)
Q1. 250g 未満なら何をしても良いのか? A. いいえ。空域規制・TFR・公園規制・プライバシー法は重量に関係なく適用されます。趣味利用で登録免除になっても、Remote ID や FRIA、CBO 要件の理解は不可欠です。
Q2. FRIA に入れば商用でも Remote ID は不要か? A. いいえ。FRIA は趣味飛行のための枠組みであり、Part 107 の運用を免除する制度ではありません。
Q3. TRUST は米国市民だけが対象か? A. いいえ。国籍に関わらず趣味飛行者は TRUST に合格し、合格証を携行する必要があります。
Q4. 夜間は常に個別許可が必要か? A. いいえ。Part 107 では所定の訓練修了と反衝突灯を満たせば定常運用が可能です。趣味飛行はCBO ガイドラインに従ってください。
Q5. 移動車両上の飛行は全面禁止か? A. いいえ。条件付きで許可されます。Operations Over Moving Vehiclesの要件を満たしてください。
Q6. 空港の近くは一切飛ばせないのか? A. 必ずしもそうではありません。施設マップの上限高度内ならLAANCで即時承認が可能な区域もあります。
Q7. 目視外(BVLOS)は自由にできるか? A. いいえ。2025 年現在、一般化は途上であり、Waiver や特別枠での運用が中心です。
Q8. 外付け RID モジュールで登録番号の変更は不要か? A. 不要ではありません。DroneZone の登録情報更新を確実に行ってください。
Q9. 国立公園での空撮は空域が OK なら可能か? A. 多くの場合離着陸自体が禁止されています。管理主体の許可が必要となります。
Q10. 商用撮影で 250g 未満なら登録不要か? A. いいえ。Part 107 で用いる機体は重量にかかわらず登録が必要です。
11. 典型シナリオ別の運用フロー(実務例)
11.1 観光地での趣味飛行(250g 未満機)
- CBO ガイドライン確認(夜間の可否・反衝突灯要件)
- B4UFLY で空域チェック(TFR・特別空域・空港近接)
- 現地管理者サイトで離着陸可否(公園・景勝地のポリシー)
- 近隣プライバシー配慮(人混み・学校・病院)
- ログ・バッテリ・Failsafe 確認(帰投高度・RTH 位置)
11.2 都市近郊での商用点検(Part 107)
- 顧客要件定義(範囲・高度・時間帯・出力データ)
- LAANC で空域承認(必要な場合)
- RID 準拠・登録情報整合(標準機 or モジュール)
- Operations Over People/Night の適否(Category・灯火)
- 現地許可(敷地占用・駐車・警備・立入管理)
- 安全ブリーフィング(役割分担・緊急手順)
- 飛行・ログ記録・事後レポート(異常時の是正含む)
11.3 空港近接の教育実習(趣味・FRIA)
- FRIA 所在地・境界確認(教育機関が管理)
- TRUST 合格証携行
- VLOS 厳守・FRIA 外逸脱防止
- 手順書に RID 非対応運用の注意書き
- 記録保存(日誌・事故未然ヒヤリハット)
12. 施策動向と今後の見通し(BVLOS・UTM 等)
Remote ID の完全実装によって、空域の可視化・責任所在の明確化は進みました。次段階はBVLOS の恒常化とUTM(UAS Traffic Management)の本格展開であり、データ連携・動的空域管理・混合空域運用が鍵となります。Operations Over People/Nightの定常化は、都市部点検・報道・セキュリティに裾野を広げました。2025 年時点では、Waiver や実証プログラムを足掛かりに、標準化・自律化に向けた議論が継続しています。運用者はFAA のポリシー更新を追い、訓練・手順・装備のアップデートを怠らないことが、コンプライアンスと競争力の両立に直結します。
13. 参考リンク(公式・一次情報)
- FAA:Recreational Flyers(趣味飛行の要件と TRUST)
- FAA:The Recreational UAS Safety Test(TRUST)
- FAA:Register Your Drone(DroneZone)
- FAADroneZone(登録・承認ポータル)
- FAA:Remote Identification(Remote ID の概要)
- FAA:FRIA(FAA-Recognized Identification Areas)
- FAA:Operations Over People / Night(Part 107 改正の要点)
- eCFR:14 CFR Part 107(小型 UAS 規則本文)
- FAA:Airspace Authorizations for Recreational Flyers(LAANC)
- FAA:Getting Started(総合入口・B4UFLY)