【2025 年版】日本のドローン規制まとめ
はじめに
近年、ドローンは空撮・物流・農業・点検・防災など幅広い分野で活用が進んでいます。特に 2022 年 12 月に施行された改正航空法によって「レベル 4 飛行(有人地帯での目視外飛行)」が解禁されたことは、日本におけるドローン利活用の歴史的な転換点となりました。
しかし、ドローンの自由な利用には多くの法律・規制が関わっており、一般ユーザーからビジネスユーザーまで正しく理解することが不可欠です。本記事では 2025 年時点の最新情報を網羅的にまとめ、趣味で飛ばしたい人から事業利用を検討する企業まで、幅広く役立つ解説を提供します。
1. ドローン規制の歴史と背景
官邸ドローン事件と初期の規制(2015 年)
2015 年に首相官邸屋上で小型ドローンが発見された事件を契機に、ドローン規制の必要性が急速に高まりました。同年の航空法改正により「200g 以上の無人航空機」が規制対象となり、人口集中地区(DID)や空港周辺での飛行が制限されました。
200g → 100g 基準への変更(2022 年)
その後の市場拡大に伴い、より小型で高性能なドローンが普及。2022 年 6 月 20 日からは規制対象の下限が 200g → 100g に引き下げられました。これにより、トイドローンを除くほとんどの製品が規制対象となりました。
レベル 4 飛行の解禁(2022 年 12 月)
同年 12 月、改正航空法が施行され「有人地帯での目視外飛行(レベル 4)」が可能になりました。都市部配送や高度な点検・測量への道が開かれ、ビジネス利用の幅が大きく広がっています。
2. 航空法における無人航空機の定義
-
無人航空機(規制対象)
- 重量:本体+バッテリーで 100g 以上
- 種類:飛行機、回転翼機、滑空機、飛行船
- 人が搭乗できないもの
- 遠隔操作または自動操縦が可能なもの
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模型航空機(規制対象外)
- 重量:本体+バッテリーで 100g 未満
- 一般的なトイドローンが該当
3. 100g 未満のドローンに適用されるルール
「模型航空機」は航空法の多くの規制から除外されていますが、完全に自由に飛ばせるわけではありません。
適用される規制
- 空港周辺や高度 150m 以上:航空法の許可が必要
- 小型無人機等飛行禁止法:国会議事堂、原発、防衛施設などの 300m 圏内は重量に関係なく飛行禁止
- 自治体条例:東京都立公園、大阪城公園、京都市内の一部エリアなどは全面禁止
よくある誤解
「100g 未満は規制なし」という誤解が多いですが、実際には 法律+条例+マナー の 3 点セットで守る必要があります。
4. 100g 以上のドローンに適用される規制
機体登録制度
- 2022 年以降、100g 以上の全ての機体に登録義務
- 登録は DIPS でオンライン申請可能
- 登録後は固有 ID を記したシールを機体に貼付
リモート ID の義務化
リモート ID とは
リモート ID は、飛行中のドローンから電波で機体の識別情報や位置情報を発信する装置です。これにより、地上から飛行中のドローンを識別・監視することが可能になり、違法飛行の抑止や事故時の機体特定に役立ちます。
搭載義務の対象
- 2022年6月20日以降に登録された機体:原則リモート ID 搭載義務
- 2022年6月19日以前に登録された機体:事前登録により搭載免除(経過措置)
- 100g未満の機体:搭載義務なし
リモート ID の種類
内蔵型リモート ID
- 機体製造時に組み込まれているタイプ
- DJI Mavic 3、Air 3、Mini 4 Pro などの新型機に標準搭載
- ファームウェアアップデートで機能を有効化
外付け型リモート ID
- 既存機体に後付けするタイプ
- 価格:2万円〜4万円程度
- 重量:20g〜50g程度
- バッテリー持続時間:3〜6時間
- 主な製品:TEAD製、イームズロボティクス製など
発信される情報
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静的情報
- 登録記号(JU から始まる番号)
- 製造番号
- 機体の型式
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動的情報
- 現在位置(緯度・経度・高度)
- 速度・方向
- 時刻
- 認証情報
リモート ID が免除されるケース
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特定飛行を行わない場合(下記の全てを満たす)
- 人口集中地区以外
- 空港周辺以外
- 高度150m未満
- 日中の目視内飛行
- 人・物件から30m以上離れた飛行
-
係留飛行
- 30m以下の紐等で係留し、飛行範囲を制限
-
屋内飛行
- 四方と上部が壁や天井で囲まれた空間
-
立入管理措置を講じた飛行
- 補助者の配置等により第三者の立入を制限
違反時の罰則
- リモート ID を搭載せずに特定飛行を行った場合:50万円以下の罰金または1年以下の懲役
- 不正な情報を発信した場合:同上
今後の展開
- 2025年末まで:経過措置期間の終了予定
- UTM連携:将来的に無人航空機交通管理システムと連携し、リアルタイムな空域管理を実現
- 国際標準化:ASTM規格やISO規格への準拠により、国際的な相互運用性を確保
許可が必要な「特定飛行」
- 空域関連
- 空港周辺
- 高度 150m 以上
- 人口集中地区(DID)
- 飛行方法関連
- 夜間飛行
- 目視外飛行
- 人や物件との距離 30m 未満
- イベント上空
- 危険物輸送・物件投下
違反時の罰則
- 50 万円以下の罰金
- 悪質な場合は懲役刑もあり
5. その他関連する法律
小型無人機等飛行禁止法
- 国会議事堂・原発・防衛施設周辺 300m 圏内は重量不問で飛行禁止
- 警察庁:小型無人機等飛行禁止法
電波法
- 技適マークのない送信機を使用すると違法
- 海外製品の利用時は特に注意
道路交通法
- 公道上での離着陸は道路使用許可が必要
民法・刑法
- 他人の土地上空での飛行はトラブルの元
- プライバシー侵害・損害賠償リスクあり
6. 自治体ごとの条例まとめ
自治体 | 規制内容 |
---|---|
東京都 | 都立公園全面禁止 |
京都市 | 観光地周辺飛行禁止、罰金規定あり |
大阪市 | 大阪城公園など文化財エリア禁止 |
北海道 | 広域で飛行可能だが自然公園法に注意 |
名古屋市 | 公園条例で原則禁止 |
※各自治体の公式 HP を確認のこと。
7. 国家資格「無人航空機操縦士」
一等資格
- レベル 4 飛行が可能
- 学科・実技試験は高度な内容
二等資格
- 立入管理エリア内での特定飛行が可能
試験概要
- 学科:航空法、気象、無線、運航管理
- 実技:離着陸、緊急操作、GPS 喪失対応
- 費用:10〜30 万円程度(講習込み)
移行スケジュール
- 2025 年 12 月以降、民間資格は廃止 → 国家資格一本化
8. 機体認証制度
- 第一種型式認証:レベル 4 飛行に必須
- 第二種型式認証:限定された用途に利用可
- 代表的な認証機体:DJI Matrice シリーズ、ACSL PF-2 など
9. ビジネス利用の現状とチャンス
物流
- 過疎地配送の実証実験が進行中
- 都市部配送はレベル 4 がカギ
インフラ点検
- 橋梁・送電線・鉄道でドローン点検が一般化
- 人件費削減・安全性向上
農業
- 農薬散布・作物分析に活用
- NDVI カメラで生育状況を把握
災害対応
- 被災地での捜索・物資輸送
- 特例的に許可が迅速化されるケースあり
10. 外国人旅行者のための注意点
- 100g 以上の機体は登録・リモート ID 必須
- 許可申請は日本語のみ対応
- 日本国内の住所・連絡先が必要なケースあり
- 行政書士など代行サービスの利用が現実的
11. よくある質問(FAQ)
-
Q: 100g 未満のドローンは完全に自由? → いいえ。空港周辺や重要施設では禁止、条例規制もあり。
-
Q: 公園で子どもと遊ぶのは違法? → 自治体条例次第。東京都立公園では禁止。
-
Q: 技適マークがない外国製は使える? → 違法。電波法違反で摘発例あり。
-
Q: 個人の庭で飛ばすのは? → 原則自由。ただし近隣へのプライバシー配慮必須。
12. 海外との規制比較
規制基準の国際比較表
項目 | 日本 | 米国 | EU | 中国 |
---|---|---|---|---|
重量基準 | 100g以上 | 250g以上 | 250g以上 | 250g以上 |
登録義務 | 100g以上全機体 | 250g以上 | 250g以上 | 7kg以上(実名登録) |
リモートID | 義務化(経過措置あり) | 義務化 | 一部義務化 | 地域により異なる |
操縦ライセンス | 国家資格(一等・二等) | Part 107(商用) | カテゴリー別 | 必須(CAAC認定) |
目視外飛行 | レベル4解禁済み | BVLOS許可制 | 特別許可制 | 限定的に許可 |
飛行高度制限 | 150m | 400ft(約122m) | 120m | 120m |
夜間飛行 | 許可制 | 許可不要(要灯火) | カテゴリー別 | 原則禁止 |
米国(FAA)の特徴
Part 107 制度
- 商用飛行には必須の認証制度
- 16歳以上、英語能力、TSA審査が必要
- 2年ごとの更新制
- オンライン試験で取得可能(約$175)
LAANC(低高度認可通知システム)
- 空港周辺での飛行をアプリで即座に申請・承認
- 日本にはない先進的なシステム
- リアルタイムで飛行可能エリアを確認可能
Remote ID 規制
- 2024年3月以降、ほぼ全機体に搭載義務
- Standard Remote ID または Broadcast Module が必要
- FAA認定のRemote ID対応エリア(FRIA)では免除
EU(EASA)の特徴
3カテゴリー制度
-
オープンカテゴリー(低リスク)
- A1/A3:人の近くでの飛行(機体重量で区分)
- A2:人から安全距離を保った飛行
- オンライン試験のみで運用可能
-
スペシフィックカテゴリー(中リスク)
- リスク評価(SORA)に基づく個別承認
- 標準シナリオ(STS)での簡略化申請可能
-
サーティファイドカテゴリー(高リスク)
- 有人航空機と同等の安全基準
- 旅客輸送や危険物輸送が対象
CE クラスマーキング
- C0〜C4の5段階で機体を分類
- 将来的に全機体に表示義務化予定
- 日本の機体認証制度に相当
中国(CAAC)の特徴
実名登録制度
- 250g以上は実名登録必須
- QRコードによる機体識別
- 違反者には社会信用スコアへの影響も
飛行ライセンス制度
- AOPA-China認定のライセンスが必須
- 視界内(VR)、視界外(BVLOS)で区分
- 実技試験が厳格(合格率約60%)
U-Cloud システム
- 全飛行データをクラウドで一元管理
- リアルタイムでの飛行監視
- 軍事施設周辺では自動的に飛行制限
日本の独自性と優位性
世界最軽量の規制基準(100g)
- 他国の250g基準より厳格
- トイドローンも含めた包括的管理
- 安全性重視の姿勢を反映
レベル4飛行の実現
- 有人地帯での目視外飛行を法制化
- 都市部ドローン配送への道を開いた先進事例
- 国家資格と機体認証の二重安全体制
課題と改善点
- 申請手続きの煩雑さ(DIPSの使いにくさ)
- 外国人対応の不足(英語対応なし)
- LAANCのような即時承認システムの欠如
国際的なトレンド
UTM(無人航空機交通管理)の標準化
- NASA、EUROCONTROL、日本のJUTMが連携
- 2030年までに国際標準の確立を目指す
リモートIDの国際規格
- ASTM F3411規格への準拠が進む
- 国境を越えた相互運用性の確保
Urban Air Mobility(UAM)への対応
- ドローンとeVTOLの統合管理
- 韓国のK-UAM、日本の空飛ぶクルマロードマップ
まとめ:日本の立ち位置
日本は規制の厳格さでは世界トップレベルですが、同時にレベル4飛行の実現など革新的な取り組みも進めています。今後は国際標準への対応と、使いやすい運用システムの構築が課題となるでしょう。
13. 今後の展望
- 2025〜2030 年:都市部でのドローン配送の社会実装
- eVTOL(空飛ぶクルマ)との一元管制システム導入
- UTM(無人航空機交通管理システム)の整備
- AI による自律飛行と衝突回避技術の進化
まとめ
- 100g 基準を境に「模型航空機」と「無人航空機」で規制が分かれる
- 一般利用者も条例やプライバシー法に注意が必要
- ビジネス利用は国家資格と機体認証が不可欠
- レベル 4 の実現により、物流や点検の社会実装が加速中
- 規制は頻繁にアップデートされるため、最新情報の確認が必須