フィリピン政府や企業は、ラストマイル物流の課題解決に向けてドローン技術の実証実験・導入を進めている。特に商用配送、医療支援、災害・農業用途での事例が出始めている。以下、主要なプロジェクトと成果・課題を用途別に整理する。


商用配送(eコマース・フードデリバリーなど)

Grab・Megaworld ドローン配送パイロット

2025年6月、配車配達大手Grabと不動産大手Megaworld、政府(DICT・DOTr)がマニラ首都圏のメガワールド開発地区(イーストウッド、アルコヴィア)で都市部におけるドローン配送の実証実験に着手した。マリキナ川上空を「制御された空域」とすることで、渋滞を回避しながら飲食物や小荷物をドローンが一気に輸送し、河川両岸でライダーが受け渡す仕組みである。DOTr長官、DICT次官も参列してMOUを締結し、交通網と連携した安全運航の枠組み作りを進めている。この実験は東南アジア初の都市型ドローン配送とされ、今後は他の都市や離島部への拡大も視野に入れている。

国際物流企業による試験

DICTは2025年6月の報道発表で、名称非公表ながら大手国際物流企業がルソン島でドローン配送パイロットを検討中であると明らかにした。候補地としてマニラ首都圏(マリキナ川沿い)や、ラグナ州の山間部(同州無料医薬品配布プログラム)などを挙げ、都市部と農村部双方で医薬品や日用品配送の実験を予定している。実現すれば同社にとってASEAN初のパイロット事例となり、フィリピンの物流革新を加速させる。

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医療支援(ワクチン・医薬品輸送など)

mWell OnTheGo ドローン配送(Metro Pacific Investments傘下mWell、DICT、Philippines Flying Labs)

2025年2月、通信・IT省(DICT)・保健省(DOH)・民間企業mWell、Philippines Flying Labsがフィリピン初(東南アジアでも初)の医療用ドローン配送サービスを、リサール州PililaのBarangay Nioganで開始した。この「OnTheGo Drone Delivery」では、離島・山間部の遠隔診療後に必要な医薬品を、地元の住民から集めた処方箋に基づき無人機で配送する。遠隔医療キットと併用し、通信網(DICTのBBMブロードバンド等)整備が進むインフラ未整備地域への医療アクセス改善を狙う。プロジェクト発表時には「距離は医療の障壁にならない」「多くの国民を支援できる」と政府関係者が強調した。現時点では試験段階ながら、COVID-19ワクチンや常備薬を届ける実績が報告され、遠隔地の医療供給網拡充への道筋を示している。

Philippines Flying Labs×Pfizer(アグサン・デル・スール州San Luis)

NGO「Philippines Flying Labs(PFL)」とWeRobotics、製薬大手Pfizer Philippinesは、2022年初頭にアグサン・デル・スール州San Luis郡の山間部(Sitio Tagpangi→Barangay Binicalan、標高差約14km区間)で医療物資のドローン輸送実験を実施した。村民が往復2時間かけて運んでいたワクチンや医薬品(ファイザー製COVID-19ワクチン、鎮痛剤、抗生物質等多数)を、産業用ドローン(DJI M300改造型)で輸送し、所要時間を9分に短縮することに成功している。このプロジェクトはCAAP(民間航空庁)史上初のBVLOS(目視外)飛行許可を得ており、従来困難だった山岳地帯・紛争地域への物資輸送の可能性を示した。ただし、航続距離(M300は通常8km程度)が地形で制約されることや、ピックアップ・ドロップオフ地点での着陸精度確保、重装備運用の安全確保等の課題も浮上している。今後はバッテリー技術向上や低G帯域通信の活用、現地衛生スタッフによるオペレーション訓練等で実用化を目指すという。

Philippines Flying Labs×PagerDuty(タウィタウィ県)

同じPFLは2022〜23年、南西部タウィタウィ県の離島部でもドローン配送実証実験を実施した。こちらはソフトウェア企業PagerDutyの支援を受け、島民が接種したCOVID-19ワクチンや常備薬を、病院間で無線通信と無人機で搬送するものである。タウィタウィは海に囲まれた多島嶼地域で陸路がないため、ドローンは有望な輸送手段だ。現地の首長らと協力し、衛星通信リンクやUVパックを備えたドローン機体を開発。初期段階ながら無事ワクチン輸送に成功し、「医療と技術の地域移転」モデルとして注目されている。今後は運航ルートの確立やペイロード増加、安定通信網整備が技術的焦点となる。

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災害対策・減災(災害発生前後の支援)

農業被害の危険度マッピング(FAO・農務省)

2016年3月、FAO(国連食糧農業機関)とフィリピン農務省はパンパンガ州でドローン映像を用いた農地の災害リスク評価実証を開始した。高解像度カメラとNDVI解析で、当時発生していたエルニーニョの影響下で洪水・干ばつ被害を受けやすい農地を特定し、災害前の予防・備蓄計画に反映させる取り組みである。1機のドローンで1日約600ヘクタールをカバー可能になり、従来より迅速な被害予測が可能と評価された。同様のプロジェクトはその後もフィリピン国内で継続され、リスク低減型農業支援に貢献している。

NGOによる災害空撮(台風Haiyan)

2013年の超大型台風「ハイエン」被災直後、国際NGO(Direct Relief、Team Rubiconなど)やUN機関はドローンを用いてレイテ島タクロバン周辺の被害状況を空撮した。瓦礫の中で生存者捜索や救援物資配布拠点の最適配置に利用し、従来の地上調査よりも迅速な初動計画策定を支援した。ただし当時はドローンでの物資輸送実績はなく、主に被害範囲の可視化・データ収集にとどまっている。一方、フィリピン政府や関連機関は災害時の物流手段としてドローンの研究を続けており、将来は軽量物資(救援キットや医薬品)の空輸も視野に入れている。

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農業分野(農薬散布、種まき、精密農業)

Drones4Rice プロジェクト(IRRI・農務省・PhilRice)

2024年〜開始の3年計画で、国際稲研究所(IRRI)、PhilRice、農務省が協力し、フィリピンの水田農業にドローン技術を導入している。カガヤン渓谷、CALABARZON、ビコル地方で直進播種、農薬・肥料散布のプロトコルを開発・検証し、農家向けドローンサービス育成(補助金プログラム)にも役立てている。このプロジェクトを通じ、農薬使用量の低減や生産コスト削減、病害早期検知などの効果が確認されており、産業界でもドローン参入企業(Agridom、NewHopeなど)の協力で普及が進んでいる。

Agridom Solutions(スタートアップ企業)

アグリテック企業AgridomはAI搭載ドローンによる精密農業サービスを提供している。同社のドローンは自動飛行による農薬・肥料散布と高解像度マッピングが可能で、農家は機材購入または散布代行サービスを利用できる。伝統的な播種方法では肥料・農薬を「ばらまき」するが、ドローン利用により投入量を最適化し、農作業の省力化と環境負荷低減を図る。Agridom社の報告では、同社サービス利用農地で平均収量30%増、労働コスト20%減、農薬使用量30%減、水資源90%節約といった成果が得られている。これまでに14州で1万2000ha以上の試験を実施し、今後も普及を加速していく計画だという。政府も農家向け助成金(1ha当たり2,000ペソのドローン利用助成金)を導入するなど支援を進めており、フィリピン農業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進につながっている。

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法規制・政府方針の動向

フィリピンではドローン運用に対しCAAP(民間航空庁)がRPAS(無人機)規制を定めている。商用飛行や重量7kg以上のドローンは操縦ライセンス・機体登録・運用許可が必要であり、日中飛行・目視内飛行が原則とされている。規制緩和の例として、PFLプロジェクトではCAAPが国内初の目視外許可を出すに至り、厳格な飛行計画と安全管理の下で実証実験が実施された。一方、議会でも無人機の所有・運用規制を整備する動きが進んでおり(2023年以降に複数の法案提出)、安全性と利便性のバランスに向けた議論が続いている。

政府政策では、DICTが「デジタル・バヤニハン」など国家デジタル戦略の一環としてドローン技術を後押ししている。DOTrも都市交通対策の一環と位置付け、空の物流インフラ実現を目指す。現行政策では、新技術の実験を奨励する体制(官民パートナーシップの促進)や、災害・農業支援での活用促進が掲げられている。例えば、農業分野ではナショナルDRR(災害リスク軽減)戦略に沿ってFAOと共同でドローン利活用を進めるなど、持続的な取り組みが実施されている。

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技術的課題と将来展望

ドローン物流の普及には技術面での課題もある。BVLOS(目視外)運用は規制・安全面で制限が強く、許可取得に手間がかかる。多島嶼国であるフィリピンでは降雨・台風(年間20個程度)や複雑な地形が飛行環境を厳しくする。DJI M300など産業用ドローンの航続距離は通常8km程度で、現実には着陸精度や送信系の制約で約18kmまでが限界とされる。ペイロード(搭載重量)も数kg前後が主で、大量輸送には不向きである。さらに操縦技術や運用ノウハウの整備、通信インフラ整備(山間部でのロストリンク問題)も課題だ。

一方、技術革新と政策支援で今後は状況が変わる見込みだ。バッテリー容量増大や高耐候ドローンの登場、5G/衛星通信の普及により遠隔地輸送の可能性は広がりつつある。また、飛行管理システム(UTM)の整備やUAS(無人機)登録データベースの構築により、安全性も向上する期待がある。政府・民間は引き続き、都市部でのドローン物流コリドー(例:河川・高速道路沿い)、遠隔地医療網との連携、農業・災害分野の拡大実験などを計画しており、試験規模の拡大を通じて実用化を目指している。例えばGrab・Megaworldは実証後の拠点追加を視野に入れ、医療配送では自治体による公的介入(無料医薬品配布への応用)も検討されている。フィリピンは地理的条件と交通課題からドローン物流に大きな期待が寄せられており、今後の技術成熟と規制整備で本格普及が見込まれる。


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商用配送

医療支援

災害対策・減災

農業分野

法規制・政府方針