ドローン物流(ラストマイル配送・医薬品配送・貨物ドローン輸送)の領域では、企業の資金調達額が事業規模と戦略の方向性を映し出す。本稿では、資金調達額が公開情報で追える主要企業を、世界と日本に分けて整理する。なお、未上場企業の「累計調達額」はデータベース(Crunchbase等)で数値が非公開化されることがあり、ここでは企業の公式発表・大手報道・主要DBの"公開されている数字"を優先して記載する。


世界:主要ドローン物流企業の資金調達額

Zipline(米国:医療・小売のオンデマンド配送)

Ziplineは、ルワンダやガーナでの医療配送を皮切りに、米国内での小売・医薬品配送にも展開を拡大してきたドローン物流の代表的企業だ。

  • 直近の大型調達6億ドル超を調達("raises more than $600M")
  • 補足:Reutersの報道では、同ラウンドにおける評価額にも言及されている

Ziplineの調達規模はドローン物流業界で突出しており、国家レベルの供給網に入り込むスケール型のビジネスモデルを支える資本力が背景にある。医療配送で築いた運航実績を、米国内の商業配送(小売・薬局チェーン等)へと横展開する戦略が、投資家から評価されていると読める。

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Wingcopter(ドイツ:医療・商用配送ドローン)

Wingcopterは、ティルトローター型の機体設計を特徴とし、島しょ部や医療物流での実績を持つドイツ発のドローン物流企業だ。バヌアツでの政府商用契約でも名前が挙がっている。

  • 累計(株式の)調達額6,000万ドル超("total equity raise to more than $60 million")
  • 直近(当時)のラウンド4,200万ドル(Series A extensionの一部)

Wingcopterの調達額はZiplineと比べると一桁小さいが、ティルトローター方式の独自技術と、バヌアツ・アフリカ等での実証実績が投資の根拠になっている。機体の量産体制構築に資金が使われるとされ、製造スケールアップが次のフェーズの鍵になる。

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Matternet(米国:医療・病院間配送など)

Matternetは、都市内・病院間の短距離配送に注力してきた米国企業で、スイスやドイツの病院間検体輸送で規制適合を積み重ねてきた。

  • 公開情報Series Bで4,000万ドルなどのラウンド情報が広く参照される
  • 累計:CB Insightsでは「74.78Mover12rounds」「latestSeriesB74.78M over 12 rounds」「latest Series B 40M」のような形で提示されている

Matternetの特徴は、長距離・大規模配送ではなく、都市内の規制適合を先行して積む戦略だ。FAA認証の取得やUPS Flight Forwardとの連携など、制度面での前進が投資判断の材料になっている。一方で、累計額はDBや媒体で差が出やすい領域であり、数字の取り扱いには注意が必要だ。

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DRONAMICS(欧州:貨物ドローン航空)

DRONAMICSは、ブルガリア発の貨物ドローン航空企業で、固定翼の大型ドローン「Black Swan」による長距離・大量輸送を志向する。従来のドローン物流が「ラストマイル」に焦点を当てるのに対し、DRONAMICSは「ミドルマイル」(都市間・倉庫間)の航空貨物を狙う点が異なる。

  • Pre-Series Aで累計4,000万ドル調達(公式が "raised a total of $40 million in pre-Series A funding" と明記)
  • 注意:追加ラウンド(助成・投資等)を含む「累計」はデータソースによりブレる。まずは公式の"何を含む累計か"が明確な数字を採用するのが安全だ

DRONAMICSは、EUの規制枠組み(EASA)の中で貨物ドローン航空の認証を進めており、「空飛ぶトラック」としてのポジショニングが投資家に刺さっている。ミドルマイル物流はラストマイルよりも1便あたりの収益が大きい反面、機体の大型化・認証コスト・空港インフラとの連携が必要になる。

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Elroy Air(米国:中距離・貨物eVTOL)

Elroy Airは、中距離の貨物輸送に特化したeVTOL(電動垂直離着陸機)を開発する米国企業だ。軍事・人道支援・商業物流の3領域での需要を狙う。

  • 2021年時点で累計4,800万ドル(公式が "total investment raised to date to $48MM" と明記)

Elroy Airの「Chaparral」は、自律的な積み下ろし機能を備える点が特徴で、離着陸に特別なインフラを必要としない設計を目指している。米国防総省との契約も報じられており、軍事・人道と商業のデュアルユースが資金調達の背景にある。

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Volansi(米国:長距離・産業向け物流)

Volansiは、長距離・産業向けのドローン物流に取り組んできた米国企業で、エネルギー産業や離島への配送などをユースケースとしてきた。

  • 累計は約7,500万ドル規模として報じられている(Series Bで5,000万ドル+過去分)

Volansiは長距離での産業物流(石油・ガス施設への部品配送等)に強みを持つとされてきた。ただし、ドローン物流企業は事業環境の変化で買収・再編されることも多く、最新の状況は個別に確認が必要だ。

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日本:ドローン物流関連企業の資金調達額

Aeronext(エアロネクスト):物流プラットフォーム「SkyHub」等

Aeronextは2017年に創業し、独自の重心制御技術「4D GRAVITY」を核に、ドローン物流プラットフォーム「SkyHub」を展開する。日本国内のドローン物流実証・社会実装の文脈でたびたび名前が登場する企業だ。

  • 累計調達額:約23億円(2017年創業以来の累計、と公式が明記)

Aeronextの特徴は、機体そのものではなく、物流の「仕組み」(プラットフォーム)としての展開を志向している点だ。日本郵便やセイノーホールディングス等との連携実証も行われており、日本のドローン物流における「社会実装の入口」に位置する企業の一つと言える。子会社のNEXT DELIVERYが運航事業を担う構造になっている。

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Terra Drone(テラドローン):点検・測量等が主力、UTM/物流実証も

Terra Droneは、産業用ドローンの点検・測量サービスを主力としつつ、UTM(無人航空機交通管理)や物流実証にも取り組む、日本発のグローバル展開企業だ。

  • Series Bで7,000万ドル(約80億円)調達、累計8,300万ドル(公式が "brings Terra Drone to a total of $83 million raised" と明記)

物流「専業」ではなく、産業ドローン×交通管理(UTM)などを含む"広義のドローン事業"での資金調達として理解するとズレが起きにくい。UTMは将来のドローン物流の大規模化に不可欠なインフラ技術であり、物流との関連性は高い。

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ACSL(ACSL株式会社):上場企業、機体開発・供給側

ACSLは東証グロース市場に上場する国産ドローンメーカーで、物流用機体の開発・供給側に位置する。

  • 上場企業であるため、「累計調達額」を未上場スタートアップのようにまとめにくい。増資・転換社債・新株予約権等の"資金調達イベント"が複数回ある
  • ドローン物流のエコシステムとして、物流事業者(運航)側だけに絞るなら、Aeronext(+NEXT DELIVERY)などのほうが「物流」の文脈に近い

ACSLは「物流オペレーター」ではなく「機体サプライヤー」としての位置づけが強い。日本政府のセキュリティ要件を満たす国産ドローンメーカーとしての需要が、投資の背景にある。

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資金調達額の「見方のコツ」:なぜ数字がブレるのか

同じ企業でも、ソースにより数字が違うことがある。主因は次のどれを含めるかの差だ。

  • 株式のみ(equity)か、負債(venture debt)や助成金(grants)まで含むか 株式調達だけを見ると小さく見えるが、助成金や政府支援を含むと大きくなるケースがある。特に欧州・新興国での医療ドローン事業では、政府やドナーの助成金が大きな資金源になりうる。

  • 子会社・関連会社の調達を連結で含めるか Terra Droneのように、グループ傘下に複数の事業会社がある場合、連結の定義で数字が変わる。

  • "公表済みラウンドのみ"か、未公表分を推計して含むか Crunchbase等のDBは、未公表ラウンドを推計で含む場合がある。公式発表と乖離が出やすいポイントだ。

ドローン物流企業の資金調達額を比較する際は、「公式発表で明記された数字」を優先し、「何を含む累計か」を確認することで、ミスリードを避けやすくなる。


ドローン物流の資金調達が示す業界構造

調達規模の格差が意味すること

Ziplineの6億ドル超とWingcopterの6,000万ドル超の間には10倍の差がある。これは単に「勝ち負け」ではなく、ビジネスモデルの違いを反映している。

  • Zipline型(スケール先行):国家レベルの供給網に入り込み、配送回数で収益を積む。巨額の資金は拠点設置・機体量産・規制対応に使われる。
  • Wingcopter型(技術・機体先行):独自の機体技術で差別化し、パートナーとの連携で展開する。調達額は小さめだが、技術ライセンスや製造パートナーシップでスケールする可能性がある。
  • DRONAMICS型(ミドルマイル):ラストマイルではなく都市間の貨物輸送を狙い、1便あたりの単価を上げる。空港インフラとの連携が必要で、認証コストが高い。

日本と世界の差

日本のドローン物流関連企業の調達額(Aeronextの約23億円、Terra Droneの累計8,300万ドル)は、Ziplineの6億ドル超と比較すると桁が異なる。これは、日本市場の規模感(離島・山間部の物流需要が限定的)、規制環境の違い(レベル4飛行の制度化は2022年12月)、そして投資家のリスク許容度の差を反映している。

一方で、日本は2022年12月にドローンのレベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)を制度化しており、規制面では世界的にも先進的な位置にある。制度が整うことで、今後の資金調達環境が変わる可能性はある。


主要企業の資金調達サマリー

企業名累計調達額直近ラウンド主な用途
Zipline米国6億ドル超(直近ラウンド含む)$600M+医療・小売配送
Wingcopterドイツ6,000万ドル超(equity)$42M(Series A ext.)医療・商用配送
Matternet米国約7,500万ドル(CB Insights)$40M(Series B)病院間・検体輸送
DRONAMICSブルガリア/欧州4,000万ドル(Pre-Series A)Pre-Series A貨物(ミドルマイル)
Elroy Air米国4,800万ドル(2021年時点)Series A貨物eVTOL
Volansi米国約7,500万ドル規模$50M(Series B)長距離・産業物流
Aeronext日本約23億円Pre-Bラウンド物流PF「SkyHub」
Terra Drone日本8,300万ドル$70M(Series B)点検・UTM・物流

※数字は各社公式発表・主要報道ベース。時点・含まれる項目の定義により異なる場合がある。

参考リンク


参考リンク一覧

世界:企業公式発表

世界:報道・データベース

日本:企業公式発表

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