ブラジルでは近年、商用ドローンによる物流が実験段階を抜けて実用化に向かいつつある。eコマースの拡大や都市部の交通渋滞緩和、医療物流ニーズの高まりに伴い、市場は急成長しており、2025年には約6,920万米ドル規模だったものが2034年に約15億5,280万米ドルに達すると予測されている(年平均成長率約41%)。広大な国土とアマゾン地域の未整備インフラを背景に、遠隔地や農村地域への物資輸送にはドローンの有効性が強調されている。例えば農業分野では、種子・肥料・農薬の散布効率向上にドローンが活用されるなど、幅広い用途で需要が見込まれる。
技術動向と規制
ブラジルは2017年にANAC(国営航空局)がBVLOS(視認外飛行)を認可し、ドローン物流の実用化を後押ししてきた。代表的企業Speedbird Aeroは国産技術でドローン機体と航行制御システムを開発し、固定翼・マルチローターを組み合わせた機体群を運用している。例えば固定翼ドローン「DLV-4」(最大積載5kg、長距離飛行対応)の試作機が披露されている。
Speedbirdのドローンは高度120m以下で飛行し、自社開発のUTM(無人機管制)ソフトで飛行ルートを計画・管理する。機体には障害時の自動着陸・待機機能が備わり、遠隔管制センターで24時間監視されるほか、冗長系や緊急パラシュートを搭載している。ANAC認証によって昼夜・弱雨下での運用が可能であり、BVLOS飛行や有害物輸送にも認可を取得済みである。このように、ブラジル企業はドローンを「飛行機」に準じて認証・運用することで実用的な物流サービスを展開している。
参考リンク
- Empresas apostam no uso de drones na logística brasileira - Mundo Logística
- Brazil Delivery Drones Market Size & Outlook, 2030 - Grand View Research
主な企業・事例
Speedbird Aero(ブラジル)
自社開発のドローン(DLV-1/2/4)と航法システムによる「ドローン物流プラットフォーム」を提供している。大手顧客としてiFood(食品宅配、セルジッペ州アラカジュで2025年10–11月に600件以上の配達実績)やVale(鉱石サンプル輸送)、Petrobras(沖合プラットフォーム間輸送)、検査ラボFleury(検体輸送)などがあり、世界展開を見据えている。
2026年までに約1,020万ドルの資金調達を行い、最大60kg輸送可能な新機体開発や多機同時運用(1顧客あたり最大6機)にも着手している。また都市部での有人機との共存を視野に入れ、自社UTMやドローンポート(充電・管制設備)の整備にも投資している。
参考リンク
- Speedbird mira expansão em logística com drones em série B - Mobile Time
- Speedbird Aero Delivers a Holistic Drone Delivery Ecosystem - AUVSI
iFood(ブラジル)
南米最大のフードデリバリー企業。2022年1月にANACからドローン配送の国内初許可を取得し、以来Speedbird製機体を用いて実証実験・運用を進めている。
2025年10月にはアラカジュで専用ルートを再開し、ショッピングセンターから川を渡って集合住宅へ約3kmを飛行でつなぐハイブリッド配送を実施。新型機(5kg積載、50km/h、60m高度、耐風・耐雨性能あり)で再開後1ヶ月あたり300件超を安定配達している。都市内ではドローンが配達経路の80–90%を担当し、最後の区間だけバイク便に引き継ぐ方式で配送効率化を図っている。
参考リンク
Mercado Libre(ラテンアメリカ)
ブラジルのEC大手。2023年からサンパウロ州内でドローン配送のパイロットを実施し、Speedbird製(DLV-2型)ドローンを運用している。2024年にはカンピーナスやコチアで1日50ルート以上を飛行させ、通常3日かかる配送を約90分に短縮する効果を報告している。将来的には全州都展開(高額品・緊急品優先)を目指している。
参考リンク
Synerjet(ブラジル)/ Wingcopter(ドイツ)
航空機商社SynerjetがドイツWingcopter製の医療用ドローン(Wingcopter 198型)を輸入。垂直離着陸と固定翼飛行を融合させ、最大25kg機体(うち実質貨物4.7kg)で90km/h・94km飛行可能な高性能機である。日本・マラウイ・ケニアでワクチンや血液を輸送した実績があり、ブラジルでは遠隔地医療支援向けの運用が期待されている。
参考リンク
Atech(Embraerグループ、ブラジル)
パリスト航空防衛システム大手の航空管制部門。クリチバ市と連携し、都市部でのBVLOS飛行実証プロジェクトを2025年から開始予定である。100%国産技術のドローンを使い、送電線やビルが密集する市街地での安全飛行やドローントラフィック管理(UTM)の実用化に向けた研究開発を進めている。
参考リンク
Correios(ブラジル郵便、公営)
2025年3月、クリチバ市のイベントにてドローン配送を実証。Atech・Speedbirdと連携し「ドローン航路(エアウェイ)」開発に着手した。国内開発ドローン(積載35kg)を用い、BVLOS飛行で体育館間を結ぶデモンストレーションを行い、将来の郵便配達への応用を探っている。
参考リンク
主な活用分野
医療・ヘルスケア配送
遠隔地病院への医薬品・ワクチン配送や検体輸送。Speedbirdは診断センターFleuryとの協業でサルヴァドールやベロオリゾンテ間の検体輸送を実施している。Synerjet/Wingcopterの機体は脳卒中用血液製剤や臓器など緊急物資を運べる性能があり、離島・アマゾン奥地での救急医療支援に適用が検討される。
農業支援
広大な農地における精密散布・監視。ドローンによる種子・肥料・農薬の散布は労力削減・効率化に寄与しており、特に植付け・収穫期の急速な対応が重要な作業に活用される。地形や気象の影響を受けやすい地域でも、ドローンは従来手段にない機動性を発揮する可能性が高い。
都市部・Eコマース配送
食品や日用品のラストマイル配送。iFoodやMercado Livreは都市部でドローン配送を導入済みであり、宅配所から住宅・オフィスへの短距離を効率的に結ぶ。特に渋滞が激しい都市中心部では、数キロ程度の区間をドローンに置き換えることで配達時間を大幅に短縮できる。
遠隔地・離島間輸送
アマゾン州やバイーア・マラニョン州の離島、河川沿岸部など交通網が乏しい地域への輸送。ブラジルの地理的条件(熱帯雨林、季節洪水、離散集落)では道路輸送が困難なため、ドローンによる即時配達は有力な解となりうる。実際、過去の実証で従来5日かかっていた薬品配送を40分に短縮した例も報告されている(ボトル内陸州)。
参考リンク
将来展望と課題
ブラジルでは今後、ドローン物流の商用化に向けて技術・インフラ・法整備が進むと期待される。市場予測は非常に高成長で、2024–2030年のCAGRは約41%とされる。ただし実用化には課題も多い。
規制面の課題
ANACによる厳格な認証が継続中で、新規配送ルート毎に許可取得が必要である。クリチバ市の規制サンドボックス制度のように、実験的な試行を許容する動きもあるが、全国レベルでの法整備・連邦法との整合性確保が求められる。
インフラ面の課題
ドローン専用離着陸場(ドローンポート)や充電ステーション、5G通信網などが未整備であり、これらの普及・整備が必要である。
安全面の課題
都市部飛行におけるビル・送電線との衝突回避や、サイバー攻撃対策・運航管制の高度化が急務である。
コスト面の課題
高度機体の導入費用・運用費と、既存物流との経済性比較が課題で、早期の大規模展開にはコスト低減が必要である。
これらの課題を克服しつつ、ドローン物流は都市部の交通緩和や遠隔地域医療支援など多方面の物流効率化に寄与すると期待されている。
参考リンク一覧
市場レポート・統計
- Relatório de crescimento e tamanho do mercado de drones de entrega no Brasil 2026-34 - IMARC Group
- Brazil Delivery Drones Market Size & Outlook, 2030 - Grand View Research
企業・サービス
- Speedbird mira expansão em logística com drones em série B - Mobile Time
- Speedbird Aero Delivers a Holistic Drone Delivery Ecosystem - AUVSI
- Empresas apostam no uso de drones na logística brasileira - Mundo Logística
配送サービス事例
- Entrega por drone supera 600 pedidos em operação do iFood em Sergipe - TI INSIDE Online
- O Case do Mercado Livre: Como os Drones Estão Revolucionando as Entregas - Vertie
