はじめに

オーストラリアのドローン規制は、オーストラリア民間航空安全局(CASA)によって定められています。規制の大きな特徴は、飛行の目的が「趣味(Recreational)」か「商用(Commercial)」かによって、適用されるルールが明確に分かれている点です。本記事では、それぞれのケースにおける規制の概要と、商用利用の鍵となる「除外カテゴリー(Excluded Category)」について解説します。

全てのパイロットが守るべき基本安全ルール

飛行目的を問わず、すべてのドローン操縦者は以下の「ドローン安全ルール」を遵守する必要があります。

  • 飛行高度は、常に地上 120m(400 フィート)未満を保つ。
  • ドローンは、常に自身の目で直接見える範囲(VLOS)で操縦する。
  • 第三者(飛行に関与していない人)から、常に 30m 以上の距離を保つ。
  • 人の集まる場所(公園、ビーチ、イベント会場など)の上空を飛行させない。
  • 250g を超えるドローンは、主要空港から 5.5km 以内では飛行させない。
  • 飛行させるドローンは一度に 1 機のみ。
  • 夜間や雲の中など、視界が悪い状況で飛行させない。

趣味での飛行 (Recreational Flying)

純粋に楽しみやスポーツのために飛行させる場合、CASA のライセンスや認定は不要です。ただし、上記の基本安全ルールは厳守しなければなりません。また、250g 以上の趣味用ドローンの登録制度については、導入が検討されていましたが、現在は保留されています。

商用での飛行 (Commercial Flying)

写真撮影、調査、配送など、少しでもビジネスや業務に関わる飛行は「商用飛行」と見なされ、以下の準備が必須となります。

  1. ドローンの登録: 商用利用するドローンは、重量に関わらずすべて CASA に登録する必要があります。
  2. パイロットの資格: 操縦者は、飛行内容に応じて「認定(Accreditation)」または「遠隔操縦士ライセンス(RePL)」を取得する必要があります。

「除外カテゴリー (Excluded Category)」とは?

多くの小規模な商用利用者が該当するのが、この「除外カテゴリー」です。特定の条件下であれば、本格的な RePL なしで商用飛行が許可されます。

  • Sub-2kg ルール: 最も一般的なケースで、重量 2kg 未満のドローンを使った商用飛行が対象です。パイロットはオンラインで簡単なクイズに答えて「認定(Accreditation)」を取得し、機体を登録すれば飛行が可能です。不動産の空撮やウェブサイト用の写真撮影などで広く利用されています。
  • ランドオーナー・ルール: 農家などが自身の土地で、25kg 以下のドローンを無報酬の業務(農場の監視など)に利用する場合も、認定と登録のみで飛行が可能です。

遠隔操縦士ライセンス (RePL) が必要な場合

「除外カテゴリー」の条件を超える、より本格的でリスクの高い商用飛行を行うには、RePL (Remote Pilot Licence) が必要になります。

  • 2kg を超えるドローンを使用して報酬を得る業務を行う場合。
  • 夜間飛行や目視外飛行(BVLOS)、人々の近くでの飛行など、基本安全ルールから逸脱した飛行を行いたい場合。
  • ReOC (RPA Operator's Certificate) という事業者証明を持つ企業の下で飛行する場合。

RePL を取得するには、CASA が認定したトレーニング機関で、理論と実技(最低 5 時間)を含むコースを修了する必要があります。

外国人旅行者のための注意点

オーストラリアは、外国人観光客が趣味でドローンを飛行させることに対して、比較的寛容なルールを設けています。しかし、「趣味」と「商用」の区別が非常に重要です。

  • 趣味での飛行は手続き不要: 純粋な楽しみ(レクリエーション)のために飛行させる場合、外国人であってもライセンスや機体登録は不要です。ただし、本記事で紹介した「基本安全ルール」は厳格に守る必要があります。

  • 「商用」と見なされる行為に注意: 撮影した映像や写真を販売したり、自身の収益化された SNS チャンネルで公開したりするなど、少しでもビジネスや金銭的利益につながる活動は「商用飛行」と見なされます。

  • 商用飛行の場合は登録・認定が必要: もし飛行が商用利用に該当する場合、国籍を問わず、CASA のウェブサイトで機体を登録し、パイロットは認定(Accreditation)クイズに合格する必要があります。これらはオンラインで完結するため、渡航前の準備が可能です。2kg を超えるドローンでの商用飛行など、より複雑な業務には RePL が必要となります。

  • 地域のルールを必ず確認: 国立公園や特定の沿岸地域など、CASA のルールとは別にドローンが全面的に禁止されている場所が多くあります。飛行前には必ず CASA 公認のドローン安全アプリ(例:OpenSky)で、その場所が飛行可能エリアかどうかを確認してください。

結論として、趣味の範囲内であれば、外国人旅行者も比較的簡単にオーストラリアの空撮を楽しめます。しかし、商用利用の境界線を越えないよう、自身の活動目的を明確にしておくことが重要です。

まとめ

オーストラリアのドローン規制は、趣味と商用で明確に分かれており、特に商用利用では「何のために、どのくらいの重さのドローンを飛ばすか」によって必要な手続きが異なります。多くの小規模ビジネスは「除外カテゴリー」の範囲内で活動できますが、事業の拡大やより複雑な飛行を目指す場合は、RePL の取得が不可欠です。自身の飛行がどのカテゴリーに当てはまるかを正しく理解することが、オーストラリアで安全かつ合法的にドローンを活用するための第一歩です。